恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



憎しみの奥にあった、切ないまでの哀しみ。

環はもともと、情が深く優しい人間だ。

言動はクールでたまに毒舌だが、決して冷酷な人間ではない。

報復することに一時は満足感を覚えるかもしれないが、誰かを自分の意志で傷つけたら、その傷は彼自身の心も傷つけるはずだ。


いや、そう思うのは、自分が昔の彼しか知らないからなのだろうか……。

今の彼は、自分が思っているような彼ではなくなっているのかもしれない……。


深い哀しみと後悔が、花澄の胸に黒い波のように広がっていく。

花澄はぐいと目元をぬぐい、会社に行くべく着替えを始めた。



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