恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



そして、夕刻。

重い足取りでアパートに戻った花澄のもとに、大家が駆け寄ってきた。

大家はここから徒歩5分くらいの戸建に住んでいるおばさんで、花澄は7年前、ここに来た時からお世話になっている。


「……あぁ、いた! 藤堂さんっ!」


切羽詰まった顔で大家は駆け寄ってくる。

花澄はその表情に只ならぬものを感じ、眉を顰めた。


「実はねぇ、藤堂さん。このアパート、建て直すことになったのよ」

「……えっ?」

「で、急で悪いんだけど、今度の土曜までに立ち退いてもらってもいいかしら?」


大家は花澄を見上げ、縋るように言う。

花澄は唖然と大家を見た。


「もちろん契約違反になっちゃうから、敷金を二か月分多めに戻させてもらうわ。いいでしょ?」

「……」


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