恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
「そ。見栄えがよくって、いいトコの大学出てて、経済力があって、優しくて、男らしくて……。そんな男、いたとしても絶滅危惧種よね」
「……」
「王子様に群がるハイエナの気分ていうか。昔はあーいうのは絶対ヤダ! って思ってたのに、いつのまにか自分もハイエナになってんの。怖いわー……」
知奈はため息交じりに言う。
……男に対する条件。
それで言えば、恋人であった環も婚約者であった彼も、条件としてはずば抜けていた。
今思うと、自分はかなり贅沢な環境にいたのかもしれない。
けれど……。
あの頃が幸せだった分、今の自分の環境が色褪せて見えてしまう。
生活にしても、屋敷でかしずかれていた昔に比べ、今は八王子の家賃5万のアパートで一人暮らしだ。
幸せというのは、その中に足を突っ込んでいるときにはわからず、離れてみて実感するものなのかもしれない。
そしてそれを知った時、人は幸せを取り戻そうとして努力するのかもしれない。
もちろん、今の環境がとりわけ不幸というわけではないことは花澄もわかっている。
仕事があって、住む場所があって、友人がいて……。
それだけあれば、生きていくには十分だ。けれど……。
「……あ、着信だ。ちょっとゴメン」
知奈は鞄から携帯を出し、ピッとボタンを押した。