恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~




環がなぜ、日本国籍を捨てたのか……。

きっと彼は、過去の自分を消し去りたいと思ったのだろう。

……辛く呪わしい過去しかない、日本での自分を。

日本人としてではなく、香港人として生きていくことを決断した環の気持ちを思うと、胸が潰れそうに痛む。

ぐっと携帯を握りしめた花澄の耳元で、雪也は続けて言う。


『環の父、林明杰はもともとアラブの富豪の家系の出らしい。林明杰の父親はドバイでひと財産成した人らしいが、そのあたりはまだ調べ切れてないんだ』

「……ありがと、雪くん。それだけ知ることができれば、もう十分だよ」


花澄は呻くように言った。

花澄は昔から、なぜ環が日本人らしくない榛色の瞳をしているのか不思議に思ってきた。

それはやはり、彼に外国の血が入っていたからなのだ。

────環によく似合う、あの榛色の瞳。

今は憎悪をもって自分に向けられている、あの瞳……。


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