恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
花澄は無理やりぎこちない笑みを浮かべ、ウイスキーのグラスに手を伸ばした。
基本的に酒類は客が入れるものなので、キャバ嬢はお客のOKが出ない限りは自分の酒を作ってはいけない。
花澄は事務室で始まる前に叩きこんだ酒の知識を総動員し、水割りを作った。
まずはそれを客の男に出し、次に男の隣に座っているキャバ嬢の分を作り、最後に自分の分を作る。
三人分揃ったところで三人は軽くグラスを合わせて乾杯をした。
乾杯の時、グラスは客のグラスの下半分に当たるように当てなければならない。
……というのも事務室で接客の基礎事項として教えられたのだが、実際にやるとなると緊張してしまう。
その他にもおしぼりの畳み方や煙草の火のつけ方などなど、様々なことを教えてもらったのだが果たしてうまくできるかどうか自信がない。
花澄は着物の袂を押さえ、お酒を作るときに少し濡らしてしまった自分の前のテーブルをおしぼりで軽く拭いた。