恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
4.元彼 VS 元婚約者
<side.雪也>
水曜の夕刻。
雪也はとある企業の応接室で、とある人物を待っていた。
……やがて、5分後。
キィという音とともに、応接室の扉が開いた。
艶やかな黒髪に、榛色の瞳。
均整のとれた長身を黒いスーツに包み、歩み寄ってくるその姿はどこからどう見ても『大人の男』だ。
7年前の面影は残っているのに、別の人間のようにも見える。
自分も相手からはそう見えているのかもしれないが……。
「……あなたがわざわざここに来るとは……」
「環……」
「どうやら昔話をしに来た、という訳でもなさそうですね?」
環は皮肉げに笑い、雪也を見る。
……昔と変わらない、その鋭い視線。
花澄が初めて愛した男……。
7年前、彼女の全てを奪い、そして今、彼女を傷つけようとしている男……。
軋むような痛みとともに、深く昏い嫉妬が胸にこみ上げる。
二人はお互いを睨むように見つめたまま、ソファーへと座った……。