恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



<side.環>



夜闇の中、ふわりふわりと意識が飛んでいく。

酒で鈍った頭はいともたやすく眠気に意識を奪われてしまう……。


また、あの夢だ……。


春色の、懐かしい色彩の夢の中……。

ひらひらとどこからともなく飛んでくる桜の花びらが、環の頭上に降りかかる。



────春。

成田空港の一角。

花澄が来るのを今か今かと待っていた環のもとに、航空券を手にした花澄が、長い黒髪を揺らして息せき切った様子で走り寄ってくる。


『環、遅れてごめんね! なんとか皆に気付かれないように出てきたよ!』

『……花澄、いいのか? 一緒に香港に行ってくれるのか?』

『あたりまえでしょ! 今さら離れるなんて無理だもん! ……どこまでも一緒に行こう、ね、環?』


花澄は大きな焦茶色の瞳を細め、微笑う。

環の心を昔から鷲掴みにした、その笑顔。

幼い頃から欲しいと願ってきた、ただひとつのもの────。


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