恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



痛みと焦り、そして疲れと酒気で意識が朦朧としてくる。

……だめだ、もう、立ってられない……

とその場に膝をつきかけた、そのとき。



「……貴様、その手を離せっ!」



低くハスキーな声が、辺りに響く。

腕を掴んでいた男の手が強引に外され、倒れかけた花澄の体を誰かがぐいと強く抱き寄せる。


体を包み込む、甘く濃密な花の香り。


懐かしい、その香り。

涙が出そうなほどに、心を震わせる、その香り……。



……ああ、来てくれたんだ……



なぜか、心の底からほっとする。

……昔から体に馴染んだ、彼の感触。

いつでもどんな時でも、自分とともにいた、自分の『半身』。

幼い時から全てを分かち合ってきた、ただ一人の人……。


花澄は安堵の中、すうっと意識が遠のいていくのを感じていた……。


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