恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
「環……っ!」
環はスラックスにシャツという格好で、片手に何やら盆のような物を持っている。
環はスタスタと寝台の傍に歩み寄り、寝台の脇のサイドテーブルにカタンと盆を置いた。
盆の上にはパンや果物などの軽食、そしてコーヒーが置かれている。
……こうしている姿を見ると、昔、屋敷で環が執事をしていた時のことを思い出す。
花澄は一瞬ぼうっと環の姿に魅入ってしまったが、慌てて寝台から下り、立ち上がった。
「……どこへ行く?」
環は険しい顔で花澄を見る。
花澄は環を睨むように見上げ、口を開いた。
「……アルバイトに行くの。今日だけは絶対に行かなければならないの」
「…………」
環は花澄をじっと見下ろした。
冷たく鋭いその視線。
しかしやがて、その紅梅のような唇にゆっくりと笑みが刻まれる。
息を飲んだ花澄の肩を、環はぽんと軽く寝台の方に押した。
予想外のことに、花澄の体はころんと寝台に転がってしまう。
花澄は慌てて右手をつき、身を起こした。