恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



携帯を持つ手が、ふるふると震える。

……仕事も、住む場所も、父の工房すらも……。


「…………っ…………」


花澄は無言でピッと携帯を切り、ぎりっと唇を噛みしめた。

……仕事と住む場所は、まだいい。

けれど父の工房をどうにかされることだけは、耐えられない。

工房だけは、何としてでも絶対に守らねばならない。


花澄は急いで辺りを見回した。

自分が着てきた服を探すが、どこにも見当たらない。

花澄は寝台から下り、ベッドの近くのクローゼットを開けてみた。

クローゼットの中には女物の服が20着ほどハンガーに掛かっている。

そのどれもが上質な生地で仕立てられたブランドものの服で、一着10万はするであろうかという、どう見ても庶民には手の届かない代物だ。

どれも女らしい可愛らしいデザインの服だが、さすがにこんな高価な服を着るわけにはいかない。

そしてクローゼットの下部には、靴やら鞄やらが整然と並んでいる。

それらも明らかに高級品だとわかるようなものばかりだ。



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