恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



「……相変わらずだな。旦那様も、花澄も……」


環ははらりと資金繰り表を書斎の机に放り、椅子の背に寄りかかった。

……自分に憤りの目を向けた、花澄……。

昔と全く変わらない、あの感情を露わにした、大きい焦茶色の瞳……。


「…………」


環は眉根を寄せ、苦しげに息をついた。

『ここから出るな』と言ったのに、すぐに逃げようとした花澄。

もしあの発信機を付けていなければ、花澄はまた、するりとここから逃げ出していただろう。

逃げ出そうとした理由は、アルバイトに行くためか、もしくは工房に行くためか……。

多分そんなところだろう。


彼女をそこまで追い詰めたのは紛れもなく自分だ。

しかし花澄は工房のためなら、夜の世界にすら躊躇いもなく入ってしまう。

例え一人でも自分の信念と献身を武器にして戦う、彼女の強さ……。

……環がずっと憧れていた、彼女の心の強さ。

しかし今は、その強さと献身が厭わしくすら感じる。


どうして花澄は、自分に頼ろうとしないのか……。

自分はまだ、彼女にとって頼るに値する人間ではないのか……。



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