恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
環はあれから花澄に接触して来ようとしない。
夜、自分の寝ている間に手当てをしてくれるだけだ。
恨んでいるのなら、どうしてこんな、真綿で包むようなことをするのか……。
復讐するというのなら優しいところなど見せないでほしい。
……口は悪いけれど、いつも優しかった環。
あのハンドクリームも、花澄が知らないところで環はいつも通学鞄に忍ばせていた。
環の優しさに触れると、あの頃の自分に引き戻されてしまう。
まるで吸い寄せられるように環に惹かれていた、あの頃の自分に。
「……環……」
環はもう、自分に憎しみしか抱いてないのに……。
自分は、まだ……。
胸に広がる、切ない痛み。
目頭にじわりと涙が滲む。
花澄はしゃくりあげ、指先で涙を拭った。