恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
「藤堂様でございますね。どうぞ、こちらへ」
案内係がにこりと笑い、優雅に一礼する。
……例え相手が明らかに安物とわかる格好でも、態度を変えないのはさすがだ。
せめて挙措だけでもこの場に恥じないものにしよう、と花澄は背を伸ばし、案内係の後に続いてゆっくりと歩いた。
案内されたのは、店の奥にある会員向けの個室だった。
「失礼いたします。藤堂様がお見えです」
個室の中は、重厚な黒木のローテーブルを囲むように、座り心地の良さそうな黒いソファーが配置されている。
設えられた調度品もすべて木製で、年代ものであることは一目瞭然だ。
店内は普通に白いカバーが掛けられたテーブル席が並んでいたが、この部屋は寛ぐことを目的に用意された一室らしい。
使い心地が良いものや、上質なものだけを揃えたその部屋は、まさに『会員向け』だ。
ソファーには既に、7人ほどの男女が座っていた。
男性陣は皆30歳前後で、黒や紺の上質なスーツを身に着けている。
恐らく花澄が身に着けているスーツより、桁が二つほど違うだろう。
『今回のメンズはかなりハイスペック』と聞いてはいたが、実際に目にすると腰が引けてしまう。