恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



────それから。

花澄が口にする食事は全て、環が作るようになった。

持ってくるのは相変わらず黒服で、環は姿を見せようとしない。

食事は初めの頃は炒飯やオムライスなどあまり手のかからないものだったが、日を追うごとに品数が増え、手の込んだものになっていく。

五日後には一人で完食するのが難しいほどの量になり、花澄は黒服に一緒に食べないかと誘ってみたが、黒服はとんでもないとばかりに皆辞退してしまう。


花澄は環が作った食事を食べながら、しだいに自分の心が揺らいでいくのを感じていた。

……環が自分をここに置いている目的は、復讐だ。

環はきっと、食事で自分の心を緩めて、油断した時に復讐を開始しようと思っているのだろう。

ある意味、この食事は残酷な贈り物だ。

……針に突き刺された、甘い毒入りの果実。

でも、そうわかっていても……手を伸ばさずにはいられない。


例え毒だとしても、彼が自分のためにしてくれることを嬉しいと思う自分がいる。

その時だけは、環は自分のことを考えているだろうから……。

────あの人ではなく。

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