恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
五章
1.掴んだ真実
<side.環>
3月中旬。
平日の午後、環は港南機業・日本法人の応接室である男と向き合っていた。
上品な濃紺のストライプスーツに身を包んだその男は、テーブル越しに環の顔を真っ直ぐに見据える。
────月杜雪也。
花澄の元婚約者にして、花澄の初恋の相手だ。
「先月以来ですね。まさかあなたがまたいらっしゃるとは」
「……そろそろ頃合いかと思ってね」
雪也は少し笑い、その透明感のある澄んだ双眸をゆっくりと細める。
……昔から穏やかで優しげな、その表情。
澄んだ瞳に映し出されるのは、歪みのない真っ直ぐな心だ。
7年前、自分が香港に渡った後、雪也は花澄との婚約を自ら破棄した。
恐らく雪也は花澄をあんな風に婚約者にしたことを後悔し、自らのプライドにかけて婚約を破棄したのだろう。
そう想像できるようになったということは、自分も少しは変わったということなのだろうか。