恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
2.もう一度だけ
キィキィという耳障りな音が、辺りに響く。
……ナイフを動かし始めてから10分。
花澄は必死にバングルにナイフの刃をこすりつけていた。
バングルに細かい傷は付き始めたものの、この調子では一時間経っても切断するとまでは到底いかないだろう。
ちょっと無謀すぎたかな、と花澄が思った、その時。
キッチンの入り口で、何かがバサッと落ちるような音がした。
その音に花澄ははっと顔を上げた。
作業に集中していたため気付かなかったのだが、誰かがいたらしい。
黒服だろうか、と思い首を回した花澄の目に映ったのは……
榛色の瞳を大きく見開いた、環の姿だった。
花澄は驚き、手を止めた。
……どうして、ここに環が……
と思った花澄のもとに、環は頬を引き攣らせて走り寄る。
あっと思う間に腕を掴まれ、ナイフをもぎ取られる。
環はナイフを躊躇うことなく床に放り、壁に向かって蹴り飛ばした。
カランと音を立てて転がるナイフを、花澄は唖然と見つめた。