恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



5分後。

二人は工房の奥にある事務室に入った。

先に入っていた繁次は、机の脇に置いてあるキャビネットの鍵を開け、中から何かを取り出す。

それは…………


「……預金通帳?」


花澄は差し出されたそれをしばし怪訝そうに眺めた後、はっとあのことを思い出した。


……そういえば。

あの5000万はどうなったのか?

と青ざめた花澄の前で、繁次も困ったように首を傾げる。


「……環。いくらなんでもこんな大金を受け取るわけにはいかない」


と言った繁次に。

環は軽く首を振った。


「いえ、旦那様。それは私なりのご恩返しの気持ちです。どうかそのままお納めください」

「だがな……」

「こんなものでしか返すことができず、申し訳ございません」


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