恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



二人は眉根を寄せ、掲示板を見上げていた。

環が乗る予定のキャセイパシフィック航空635便は、どうやら搭乗口が変更されたらしい。

慌ててそちらの方に足を向けようとした花澄を、環が止める。


「いや、ここでいい。……ここで見送ってくれ」

「え? どうして?」

「あまりついて来られると、お前を連れて行きたくなる」

「……っ!」


花澄は思わず息を飲んだ。

環はくすりと笑い、腕を伸ばして花澄の髪を優しく指先で梳く。


「……また、5月の連休に来る。日程が決まったら、連絡するから」

「うん……」


花澄は環の腕をそっと掴み、俯いた。

……環に今度会えるのは、一か月後だ。

別離を思うと、胸が軋むように痛む。

けれど7年間の別離の辛さに比べれば、この痛みすら甘く感じる。



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