恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
と、花澄が漏らすと。
環ははぁと息をつき、花澄に向き直った。
腕を組み、花澄を正面から見据える。
「『優劣不分、貽害非浅』。……お前はまずここからだな」
「……え? なにそれ?」
「商品の良し悪しが分からない商人は浅くないダメージを受ける、という意味だ。自分が扱う商品のことを知るのは、商売の基本中の基本だ」
「なるほど……」
「商品を学び、客を学び、金の回り方を学ぶのが商売の基本だ。商売に『奇道』はない。正々堂々と『王道』を行くしかない」
淡々と環は言う。
花澄はへぇと目を丸くした。
「環の香港のご家族って、華僑なんだよね? それって華僑の教えなの?」
「今は華僑というより華人と呼ぶのが一般的だけどな。……これは華僑の教えというより、孫子の教えだ。あっちでは、経済学部に入った学生はまずはこれを叩きこまれる」