恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



19:00。

花澄は環と共に、由比ヶ浜にある『Auberge Etre』に向かった。

このオーベルジュは海岸線を走る国道134沿いの海に面した高台にあり、一階はフランス料理のレストラン、二階より上は会員制の宿泊施設になっている。

レストランを含めどの部屋からも、建物などに遮られることなく由比ヶ浜を一望することができる。


窓際の個室に通された二人はコートを店員に渡し、店員が引いてくれた椅子に腰かけた。

濃いブルーグレーのスーツを身につけ、艶やかな黒髪を少し整えた環は、どこからどう見ても大人の男性といった雰囲気だ。

その翳りを帯びた榛色の瞳といい、甘くスパイシーな香水の香りといい……。

傍に居るだけで、条件反射のように胸がときめいてしまう。

花澄も盛装した環に合わせ、クローゼットに入っていた濃赤色のロングワンピースとカシミアのカーディガンを身に着け、いつもより念入りに化粧をし、髪を整えた。

ちなみにクローゼットに入っていたあれらの服や小物は、環が花澄のためにわざわざ買い付けたものらしい。


椅子に座った花澄に、環は優雅に微笑んで言う。


「大変お綺麗ですよ、お嬢様。いつぞやの猿向けの金襴緞子もそれなりにお似合いでしたが、こちらのほうが遥かにお似合いです」

「……ちょっと、環。わざわざ敬語で馬鹿にするの、やめてくんない?」



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