恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
この瞳に見つめられると、自分は何も考えることができなくなる。
7年前から、そうだった。
環の瞳が誘惑の色を帯びた時、花澄はまるで甘い花園に誘い込まれるように、ふらふらと吸い寄せられてしまう。
そしていつのまにか、環の情熱に囲われ、躊躇いも理性も押し流されてしまう。
────魅惑の瞳。
環自身は気が付いていないのかもしれないが、正直、この瞳は魔眼にも等しいと思う。
なにしろこの瞳に囚われたが最後、自らの意志でまともに考えることができなくなるのだ。
身の破滅を予感しつつも引きずり寄せられるような、危うくも妖しい魅力がある。
「……っ、環、何頼もうか?」
花澄は慌てて視線を逸らし、メニューを覗き込んだ。
環が『林暁生』としてデートしていた時は環が独断でコース料理を頼んでいたのだが、今は二人で外食する時はその都度話し合って決めるようにしている。
もちろん環に頼めば完璧にエスコートしてくれるのだが、7年ぶりに再会した今は、なんとなく昔付き合っていた時のように過ごしたいなと花澄は思ってしまう。
たぶんそれは、大人になった環に自分がまだ慣れていないせいなのだろう。
大人モード全開で来られたら、環に自分の心の全てを持って行かれてしまう気がして怖い。
……これから離れなければならないのに、これ以上好きになってしまうのが、怖い。
メニューを覗き込む花澄を、環の瞳が愛しげに見つめる。