恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



「……『先奪其所愛、則聴矣』」

「え? なに?」

「『その愛する所を奪わば、即ち聴かん』。つまり相手が最も大事にしているものを奪えば、主導権を握ることができるという意味だ」


環は花澄の頬を優しく撫でながら言う。

花澄は環の腕に身を委ね、その話を聞いていた。


「お前の身持ちが固いことは、おれも知ってた。だからおれは、お前の初めての男になれば、お前がおれしか見えなくなると思った」

「……っ……」

「そうすれば、身分とか立場とか……おれ達の間にどんな問題があったとしても、お前はおれから離れられなくなるだろうって、思ってた……」


自嘲するように環は言う。

花澄は驚き、環の話を聞いていた。


「でも、実際は……。囚われたのはおれの方だった。お前にのめり込んで、お前しか見えなくなって……」

「……環……」

「自分でも気付かないうちに、救いようがないほど、お前に溺れてた。……お前の気持ちがおれから離れようとしてたのに、それにも気付かないほど、おれは……」


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