恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
門を入ると、屋敷の玄関に続くアプローチとその両脇に広がる庭が見える。
敷地の中に入った花澄は目の前に広がる光景に思わず息を飲んだ。
芝生も草も伸び放題で、花壇にはかろうじて生き残ったラベンダーやチューリップが晩春の風に弱々しく揺れている。
花壇の向うに広がる雑木林の木々の幹には蔦がからまり、枯れた枝や葉が風の中、サワサワと哀しげな音を立てている。
「6年放置すると、こうなるんだ……」
花澄は唖然と呟いた。
―――― 一昨日。
屋敷の鍵を繁次からもらったとき、繁次はこう言っていた。
『うちの屋敷だがな、7年前にうちが売った後、その一年後ぐらいにまた売りに出されて、駅前の不動産屋が買い取ったらしい。だがその後は買い手がつかなかったようだ』
『え、そうなの?』
『このご時世だからな。住むというよりは資産転がしの目的だったのかもしれん。幸いそんなに値は釣り上がってなかったから、あの資金で買い戻せたが……』
『良かったね。……でも、ってことは6年間放置されっぱなしってこと?』
『普通のアパートや戸建なら内見があるから手入れするだろうが、うちは特殊だからな。買い手がついたら手入れしたのかもしれんが……』
花澄は父の言葉を思い出しながら敷地の中を見渡した。
家は手を入れないとあっという間に荒れると言うが、まさにそんな感じだ。
これは思ったより大仕事になるかもしれない。
一週間後の環の帰省までにある程度元の状態に戻しておきたいと思っていたが、恐らく花壇や雑木林まではとても手がつけられないだろう。
……まずは、屋敷からだ。
花澄はひとつ息をつき、玄関の方へと歩いて行った。