恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



毎夜、酒を手にしていたあの頃……。

中途半端な飲み方をするとかえって寂しさに耐えられなくなることを知り、一気に意識を殺す飲み方を覚えた。

酒気にかすむ意識の中、花澄を必死に憎もうとしながら、心の奥底で無意識のうちにずっと花澄からの連絡を待っていた。

来るはずのない電話を待ち、届くはずのない手紙を待ち……。

もし花澄からメールの一本、電話の一本でもあれば、自分は花澄を許しただろう。

そして『許すから、もう一度おれを好きになってくれ、おれの傍に居てくれ』と懇願しただろう。

――――寂しさや哀しみは、人の心を壊してしまう。

この感情をいかにコントロールし、上手く付き合っていくか……。

そのやり方を知るのが、大人になるということなのかもしれない。


環はゆっくりと寝台から立ち上がり、窓辺に立った。

亜熱帯の香港では4月でも気温は25度以上あり、湿気が多いせいもあって日本で言うと7月くらいの暑さだ。

――――日本とはまるで違う気候。

摩天楼のビル群は湿気でぼんやりと霞み、亜熱帯の濃い緑の木々がビルの間に見え隠れする。

環は枕元に置いてあった携帯を手に取り、開いた。



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