恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
────雨上がりの夕暮れ。
濡れた落ち葉が、忙しく行き交う人々の靴に踏まれて滲んでいく。
クリスマスの電飾で彩られた街の中、自分だけがなんだか浮いている感じだ。
花澄は新宿駅東口近くのコンビニの前で、缶コーヒーで手を温めながら街の光景を見つめていた。
藤堂花澄。25歳。
7年前に高校を出た後、新宿にある小さな商社の総務部で働いている。
少し癖のある長い黒髪に、小鹿のような華奢な躰。大和撫子を思わせる情感的な焦茶の瞳。
安物のツーピースのスーツを身に着けているが、一見そうとは見えないような凛とした気品を漂わせている。
もともと、花澄は徳島で藍染め業を営んでいた旧家に連なる家の出だった。
高校生まではいわゆる『お嬢様』だったのだが、7年前、父が経営する藍染め工房が苦境に陥り、そこから家は没落の一途を辿った。
資金難から住んでいた鎌倉の屋敷は売りに出され、大学は一年の時に中退した。
工房だけは何とか存続したが、今も土日になると花澄は手伝いのため工房がある箱根に通っている。
「……まずっ。そろそろ行かなきゃ」