恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
「それに、『暁生』は字(あざな)です。諱(いみな)、つまり本名はまた別です」
「……え?」
「本名は……そうですね、いずれお教えすることになるかとは思いますが。ま、ややこしいので、『暁生』と呼んでください」
「は、はあ……」
花澄は眉根を寄せ、首を傾げた。
『いずれ』って……。
と訝しむ花澄の前で。
暁生の顔が、一瞬無表情になった。
次の瞬間、暁生の顔に浮かんだのは……。
────艶やかな色気を帯びた、昏く鋭い瞳。
その凄みを感じる瞳に、花澄は思わず息を飲んだ。
花澄の視線の先で、暁生はその紅梅のような形の良い唇にゆっくりと笑みを刷く。
「さて、本題ですが。その名刺の裏をご覧ください」
「……?」