恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



「それに、『暁生』は字(あざな)です。諱(いみな)、つまり本名はまた別です」

「……え?」

「本名は……そうですね、いずれお教えすることになるかとは思いますが。ま、ややこしいので、『暁生』と呼んでください」

「は、はあ……」


花澄は眉根を寄せ、首を傾げた。

『いずれ』って……。

と訝しむ花澄の前で。


暁生の顔が、一瞬無表情になった。

次の瞬間、暁生の顔に浮かんだのは……。


────艶やかな色気を帯びた、昏く鋭い瞳。


その凄みを感じる瞳に、花澄は思わず息を飲んだ。

花澄の視線の先で、暁生はその紅梅のような形の良い唇にゆっくりと笑みを刷く。


「さて、本題ですが。その名刺の裏をご覧ください」

「……?」

< 45 / 389 >

この作品をシェア

pagetop