恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
花澄はコーヒーの缶を傾け、飲み干した。
缶をコンビニの前のゴミ入れに捨て、慌てて新宿駅の方へと歩き出す。
今日はこの後、渋谷で友人に会う予定だ。
手にした鞄の中には、さきほど広瀬から押し付けられた現金の入った封筒がある。
────どうしよう、これ。
花澄は歩きながら、頭の中で必死に考えていた。
いわゆる『手切れ金』というやつなのだろうが、まさかこんな金を受け取るわけにはいかない。
厚さからすると100万ほどありそうな感じだが、100万という金額は広瀬にとっては大金のはずだ。
花澄は歩きながら、先ほどの広瀬の姿を思い出した。
これまではジーンズとTシャツなど、どちらかというとラフな格好が多かった広瀬。
高卒で配管工であることを考えても、給料レベルは自分と同じくらいだろうと花澄は思っていた。
しかしこの数週間で、広瀬は明らかに高価だとわかる衣服を身に着けるようになり……。
それらは全て、どう見積もっても月給では賄えないものばかりだ。
あの時見た女性と何か関係があるのだろうが、『元カレ』になってしまった今、詳しく聞くのも躊躇われる。