恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
慌てて断ろうとした花澄の横で、暁生はバーテンに何やら素早く注文した。
数分後、花澄の前にトンとワイングラスが置かれる。
「これは1967年のシャトー・ディケムです。どうぞ、ひと口飲んでみてください」
生産年が付いているだけで、なんだか格調高いワインに思えてしまうのは気のせいだろうか。
花澄はその白ワインの入ったグラスを手に取り、香りを嗅いでみた。
甘い馥郁とした香りだが、蜂蜜のような甘ったるさとは違う、爽やかな甘さが鼻をくすぐる。
香りを嗅いだだけで、普通のワインではないとわかる。
花澄は思わずコクリと息を飲み、ゆっくりとグラスを傾けた。
口の中に広がる、雑味の全くない豊潤な風味。
その味に、花澄は驚き呟いた。
「……美味しい……」
こんなワインは飲んだことがない。
いつも会社の飲み会で飲み放題リストに入っているワインとは雲泥の差だ。
そう言っては何だが、泥水とアムリタぐらいの差があるような気がする。
花澄は二口、三口とつい飲んでしまった。