恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
二章
1.迫りくる予感
────翌日。
花澄は朝から、箱根にある父の工房へと向かった。
二日酔いの頭には電車は地獄のようにキツいが、年明けに商品の納品が迫っているため、どうしても行かねばならない。
工房は芦ノ湖の近くにあり、周りは山林で囲まれている。
工房は天然木作りで、建ててから既に20年近くが経過しているためあちらこちらに綻びが出始めている。
そろそろ修理しなければと花澄も父も思っているが、資金に困窮している今はとてもそこまで手が回らない。
花澄が工房の入り口をくぐると、奥から父の繁次が顔を出した。
「悪いな、花澄。こんな寒い中、朝早くから来てもらって」
「ううん。大丈夫。……さ、何すればいい?」
「じゃあ、そっちの綿布を例の図案で縫ってもらっていいか?」
父の言葉に、花澄は軽く頷いた。
染め物にはいろいろな手法があり、綿布を模様が出るように縫って絞り上げ、染め上げる手法はろうけつ染めと呼ばれる。
花澄はぐるりと工房内を見回した。
昔は藍染め用の竈だけではなく、草木染用の竈にも火が入っていたのだが、草木染用の竈はここ五年ほど使われずに放置されている。
蜘蛛の巣が張った竈を、花澄は辛そうな表情でじっと見つめた。