恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
幸福な時は何も考えずに生活していた。
自分がどれだけ幸福の中にいたのか、その頃はわからなかった。
ひとりになってみないと、わからないことがあるのかもしれない。
花澄ははぁとため息をつき、玄関の鍵を閉め、部屋の電気をつけた。
アパートにいると、一昨日のことが夢のように思える。
花澄はポットの湯を沸かしながら、昨日会った暁生の面影を思い出した。
……環にそっくりだけれど、性格はまるで違う人……。
あの封筒を置いて来てしまったことに気付いたのは、アパートに戻ってからだった。
あれは広瀬に返さなければいけない金だ。
でももう暁生とは、二度と会うことはないだろう。
名刺は貰っているが、花澄としては二度と会うつもりはない。
彼と会うと、環を思い出さずにはいられない。
そして環との違いに、落胆せずにいられない……。
自分を一途に想ってくれた環。
クールで意志が強くて、プライドが高くて……でも優しいところもあって……。
花澄はかさつき、ひび割れた自分の手をまじまじと見た。
昔から花澄は手先の皮膚が弱く、環はいつも通学鞄にハンドクリームを忍ばせていた。
────花澄のために。