恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
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鈍い灰色の雲の隙間から、風花が舞い降ちる。
曇天の下、飛行機が一機、また一機と轟音と共に滑走路に降り立っていく。
────成田空港の到着ロビーの一角。
会員専用ラウンジの窓から飛行機を眺めながら、男は手にしたコーヒーカップを静かに傾けた。
「……7年ぶり、か……」
あの日は、風花の代わりに桜が舞っていた。
記憶の中で、その桜の花びらは喪のような灰色になっている。
花びらから沁み出す苦い想い出が、じわりと胸に広がっていく。
男にとって日本は、『恩讐』の象徴だ。
返すべき恩と、果たすべき恨み────。
「恨み、か……」
男は自嘲するように笑い、首を振った。
この7年の間で『恨み』はゆっくりと、微妙に形を変えた。
今となっては、それは恨みというより『壁』に近い。
乗り越えなければいけない、壁……。