恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
10:00。
銀行を出た花澄は、下ろした100万円をバッグに忍ばせ、広瀬が務めている笹塚の工務店へと向かった。
あの200万は後でどうにかしないとならないが、とりあえず、広瀬に返すものは返さねばならない。
花澄は電車を降り、甲州街道沿いの広瀬の勤める工務店へと歩いて行った。
……が。
「……うそ……」
花澄は工務店の前で足を止め、呆然と呟いた。
工務店は既にもぬけの殻で、中には全く人影がない。
ドアに貼ってあるのは、『テナント募集中!』と印刷されたカラフルな紙。
……まさか、そんな……。
花澄は慌てて携帯を取り出した。
広瀬の番号を表示し、電話を掛ける。
しかしコール音の後に続いたのは、『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』という機械的な音声だった。
「……っ……」
何だか嫌な予感がする。
良くない何かがじわりじわりと迫ってきているような……そんな気がする。
花澄はぐっと息を飲み、携帯を握りしめた……。