恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~

2.一日20万のバイト




午後。

花澄は足早に会社の裏口をくぐった。

花澄が勤めている『森口商事』は天然繊維の卸会社で、東南アジアなどから仕入れたケナフや竹、ヘンプ等の素材を国内の各商社に納めている。

7年前、ハローワークで職探しをしていた花澄を拾ってくれたのがこの会社だった。

花澄は幼い頃から父の工房に出入りしていたため、繊維にはそれなりに詳しく、そういった理由から採用を決めたらしい。

しかし花澄に任されたのは総務兼人事という事務仕事で、今は1階の総務課の隅で細々とした仕事をしている。


「あー、ようやく来たか。突然午前休なんて、周りの迷惑も考えろっての」

「すみません、課長」

「その年末調整のやつ、今日中にやっとけ。過不足の一覧が出来たら見せろ。わかったな」


花澄の向かいの席に座った初老の男が暇そうに新聞をめくりながら言う。

住田恒雄、58歳。花澄の直属の上司で、現在は課長職についている。

花澄は席に着き、自席のノートパソコンを立ち上げた。

『年末調整』と書かれたフォルダから該当のファイルを開き、社員から提出された年末調整の表に基づいて金額をチェックしていく。

年末調整というのは社員一人一人の年税額とこれまでに徴収した税額の差分を調整するために行う作業で、1/10までにまとめて役所に提出しなければならない。



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