恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
あの過去を乗り越えなければ、この壁を乗り越えなければ、自分はこれ以上前に進めない。
そのためには、彼女に再び向き合い、今度こそ完全に決別しなければならない。
完全な決別のために、何をすべきか……。
既に、準備は整っている。
あとは、情に引きずられずに────淡々とすべきことをするだけだ。
男は唇の端に笑みを浮かべ、ソーサーにカップを置いた。
男の横に立っていた鋭い目つきの男が、腰を屈めて口を開く。
「暁生様。そろそろ送迎の車が来るお時間です」
「わかった。例の件、手配は済んだか?」
「はい。無事完了しております」
「そうか」
男は短く言い、静かに立ち上がった。
その背には、静かな決意が漲っていた……。