恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
「いくら大金を銀行に預けてあっても、銀行が倒産したらおしまいです。ですから中国では、資産というと土地を指すのです」
「土地、ですか?」
「『求之於勢』。時と勢いを知ることが大事であるという意味ですが、為替レートなど、通貨の価値は政治的要素で大きく変動します」
花澄は高校の時に学んだ現代史の知識をぼんやりと思い出した。
……確かに、そんなことが教科書に書いてあったような気もする。
暁生はフォークを動かしながら続ける。
「恐慌などになれば、紙幣など一夜にして紙屑に変わります。けれど土地であれば、その時は無価値に近くても、30年後、50年後には価値が上がっているかもしれない」
「……確かに……」
「日本人は『将来』というとせいぜい自分の子供の代ぐらいまでしか想像しませんが、中国人は100年後を想像します。なので、土地を増やしていくということが重要なのです」
暁生の言葉に花澄はなるほどと頷いた。
────日本人と中国人の意識の違い。
日本人に比べて中国人の方が商才に長けているのも、稼いだ金を子孫のために土地に回そうと考えているからなのだろうか。
と花澄が言うと、暁生は感心したように頷いた。