恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
「なかなか鋭いですね、花澄さん。……そうです、中国人が金を稼ぐ目的は、基本的には『土地を買うため』です」
「土地の、ため……」
「もっとも、金儲けに対する感覚が、日本人と中国人では違いますけどね。中国では金儲けは卑しいことではなく、むしろ称賛されるべきことなのです」
「……え、そうなんですか?」
「中国ではビジネスマン同士で挨拶する時、『ニーハオ』ではなく、『発財(ファーツァイ)』という挨拶を使います。文字通り、『発財しましょう』という意味です」
暁生の言葉に、花澄はうーんと首を捻った。
金儲けしても、発財してしまったのでは意味がないような……。
と思ったのが伝わったのか、暁生は少し笑って言った。
「現代社会では、『発財』せずに空気と水だけで生きていくことはできません。何をするにも対価が必要です」
「それは、そうですけど……」
「みんなが『発財』すれば、社会全体の景気が良くなる。だからお金を儲けて発財するのは社会のためになる。……そういう考え方なのです」
暁生はそこで言葉を切り、ふっと視線を逸らした。
眼鏡の奥の黒い瞳に影が落ちる。
ん? と思った花澄の前で、暁生はため息交じりに言う。