恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
「もっとも、金というものの本質は、そんなに綺麗なものではないと私自身は思っているのですけどね……」
「……え?」
「金は甘美ですばらしいもの。しかしこの世で最も恐ろしい毒でもある。……誰の言葉かは忘れましたが、私もそう思いますよ」
そう言った暁生の目に、苦しげな影が落ちる。
────切なく辛しげな、その表情。
花澄は初めて見る暁生の表情に思わず息を飲んだ。
胸によぎる、既視感……。
そう、昔、環が全く同じ表情をするのを見たことがある。
驚く花澄の視線の先で、暁生は唇の端に自嘲するような、皮肉げな笑みを浮かべた。
何かを思い出しているかのような、その横顔。
しかしすぐに気分を払拭するように顔を上げ、ニコリと笑って花澄を見る。
「というわけで、私があなたに対して金を使うのも、世の中のためなのです。周り回って、世界経済のためでもあるのですよ?」
「え……ええっ?」
花澄はぽかんと暁生を見た。
世界経済って……。
そんなスケールの大きな話になるとは思ってもみなかった。
戸惑う花澄に、暁生は眼鏡の奥の瞳を細めて笑う。