恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~



繁次は首を捻る。

繁次が手にしているのは、東京にある取引先『桜塚工房』から来た、とある中国企業と取引しないかという紹介書だ。

『桜塚工房』はこの工房で作った藍染め製品を納入させてもらっている得意先で、この『桜塚工房』への売上が年間売り上げの30%ほどを占める。

なのでそこからわざわざ紹介があったとなれば、無下にするわけにもいかない。


「どんな会社なの? それ」

「なんでも香港でトップ5に入る華僑系企業の子会社で、ファブリックの輸出入を専門にやってる会社らしい」

「はあ……」

「契約するとなれば専門の業者に『桜塚工房』から頼んでくれるらしいが、中国とは取引したことがないからな。どんなもんだか……」


繁次は困惑した様子で紹介書を眺めている。

花澄も紹介書を脇から覗き込んだ。

紹介書はしっかりと体裁を整えられ朱印も押されたもので、どうやら『桜塚工房』はかなり本気らしい。

紹介書の中には取引会社名と思われる『港南出進有限公司』の記載があり、その上に『港南機業有限公司』とある。

どうやらこれが親会社の名前らしい。

しかしこの名前、どこかで聞いたことがあるような……。

と首を傾げた花澄に、繁次は奥の棚から一週間ほど前の新聞をがさがさと取り出し、机の上に手早く広げた。


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