恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~



20:00。


「………………」


花澄は意を決し、バッグを片手に席を立った。

予約の時間から一時間が経過している。

イブの夜は店にとってもかき入れ時だ。

食事をしないのに、これ以上席を占拠するわけにはいかない。


花澄が立ち上がると、奥のカウンターのところにいた店員が足早に歩み寄ってきた。


「お客様……」

「すみません。予約、キャンセルしてもいいですか?」

「はい、畏まりました」


店員は恭しく一礼して言う。

恐らく直行が来ないことを店員なりに心配していたのだろう。

店員は花澄を店のエントランスの方へと案内する。

入口のカウンターのところに来たところで、花澄は言った。


「……あの、席料はいくらでしょうか?」

「いえ、結構でございます」



< 11 / 334 >

この作品をシェア

pagetop