恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
店員は気遣わしげに花澄を見る。
……イブの夜にディナーの約束をすっぽかされた女。
店員からしてもどう接すればいいか困るだろう。
花澄の前で、店員は深々と頭を下げる。
「どうぞ、お気をつけてお帰り下さいませ」
花澄は店員に軽く頭を下げ、エレベーターの方へと足を向けた。
エレベーターはレストランと1Fを繋ぐ直通のもので、一基しかない。
花澄はちょうど来ていたエレベーターに乗り込み、項垂れたまま『1F』のボタンを押した。
……なんだか、とてもみじめだ。
微かな機械音と共にゆっくりと扉が閉じる。
そのとき。
レストランのエントランスから、スーツ姿の男性が飛び出してきた。
端整な面差しに、昔から変わらない澄んだ双眸。
……雪也だ。
雪也は焦った様子で辺りを見回し、エレベーターの中にいる花澄を見るや、目を見開いて叫ぶ。
「────花澄っ!」