恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
三章
1.予想外の話
2月の最終週の土曜。
10:00。
花澄は目黒にある月杜家の本宅を訪ねていた。
目黒駅から歩いて10分ほどの閑静な住宅街の中にある月杜家の邸宅は、ヨーロッパの古民家を思わせるような瀟洒な西洋風の建物だ。
門のインターホンで名前を告げると、メイドと思しき女性が玄関口に現れ応接室へと案内してくれた。
応接室は濃緋色の絨毯が敷き詰められ、マホガニーやウォールナットの重厚な年代物の家具が壁に沿って配置されている。
南の庭に向けて開かれた窓からは沈丁花の芳香がほのかに香り、フランスのアンティーク刺繍が施された白いレースカーテンが風に揺れている。
やがてキィとドアが開く音とともに、シックな紺のワンピースを着た女性が賢吾と共に姿を現した。
「お待たせして御免なさいね、花澄ちゃん」
と綺麗に紅を刷いた口元に笑みを刻むのは……。
月杜小百合。雪也と賢吾の母だ。
最後に会ったのは7年前だが、あの時と印象は全く変わっていない。