恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~



花澄は慌てて言った。

小百合が言っているのは7年前、雪也が資金援助という名目で花澄と強引に婚約を交わしたことだ。

しかしあれからすぐに雪也は自ら婚約を破棄した。

それに……、優しかった雪也にそこまでさせてしまったのは自分なのだ。


じっと見つめる花澄を小百合は同じようにじっと見つめ返す。

やがて小百合は小さな息をつき、少し笑った。


「そうね、もう過去のことね。……花澄ちゃんも雪也も大人になった。昔のことをいつまでも気にしているわけにはいかないものね……」


小百合は呟くように言い、隣に座った賢吾を見た。

賢吾は軽く頷き、小百合に目配せする。


花澄の向かいで、小百合はコホンとひとつ咳払いをし、姿勢を正した。

雪也に少し似た切れ長の美しい瞳で、正面からじっと花澄を見つめる。



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