恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~



黙り込んだ花澄に、小百合はすっと目を細めた。

ひと呼吸置き、少し言いにくそうに続ける。


「それにね、……雪也には、川波重工の娘さんとの縁談があるの」

「あ……はい。知ってます……」

「雪也はこれから何万という人の人生を背負っていく身。本人もそのつもりでずっとここまで頑張ってきたと思うの」


小百合の言葉に花澄は頷いた。

昔から東洋合繊の役員になるべく努力してきた雪也。

『いい人』である自分に葛藤しながらも、周りの人の期待に応えたいと言う気持ちを彼はずっと持ち続けてきた。

……真っ直ぐな心根の彼。

その真っ直ぐさに、優しい心に、花澄は昔から惹かれてきた。


「……雪也が成長するきっかけを作ったのは花澄ちゃんかもしれない。けれど成長する前と後とでは、見える世界は変わるものよ」

「小百合さん……」

「山に登れば違う世界が広がるように、今の雪也には今の雪也に相応しい人がいる。でも雪也は新しい世界を見ようとせず、昔の世界に心を囚われている……」


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