恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
花澄はごめんなさいと心の中で叫びつつ、力任せに雪也の胸を突き飛ばした。
さすがに花澄が反撃するとは予想もしていなかったのか、雪也の体が傾ぎ、花澄の肩から手が外れる。
花澄はとっさに雪也の脇をすり抜け、向かいの女子トイレに飛び込んだ。
「……っ、はぁっ、はぁ……」
尋常ならぬ様子でトイレに飛び込んできた花澄を、諒子がぎょっとしたように見る。
口紅を手にしているところを見ると、どうやら化粧直しをしていたらしい。
「……どうしたの? あなた」
「すっ、すみません……」
「あなたは仮とはいえ秘書室に所属しているのよ? それにふさわしい所作をしなさい。だいたいあなたは……」
トイレで諒子の特別指導が始まる。
一難去ってまた一難だが、さすがに雪也もこの中までは入ってこないだろう。
花澄は内心でほっと胸を撫で下ろしながら、諒子の小言に意識半分で耳を傾けた。