恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
車は黒のクラウンで、運転しているのは月杜家に運転手として昔から勤めている田中さんだ。
短く切り揃えた白髪交じりの髪と、笑った時に目の縁にできるしわは7年前から全く変わっていない。
昔、花澄は何度か雪也と共に田中さんが運転する車で送迎してもらったことがある。
「それにしても久しぶりでございますね。また花澄お嬢様をお乗せ出来るとは、光栄の極みでございます」
「私も久しぶりにお会いできて嬉しいです、田中さん」
「それにしてもお綺麗になられましたな。賢吾様に嫁がれるとのこと、誠におめでとうございます。使用人を代表し、心よりお祝い申し上げます」
「あ、ありがとうございます……」
花澄はぎこちない笑みを浮かべた。
恐らく田中さんたちはこれが政略結婚だとは知らないのだろう。
田中さんはバックミラーの中でにこにこ笑いながら続ける。
「雪也様も唯花様とご婚約間近と伺っております。今年は良い年になりそうですね」
「……唯花様?」
「ええ。川波唯花様。川波重工の社長の御息女でいらっしゃいます」