恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
<side.雪也>
10:00。
雪也は10階にある役員室の自席で、滋賀工場のライン増設企画書のチェックをしていた。
東洋合繊には役員が11人おり、それぞれ個室が宛がわれている。
雪也の部屋は南向きで、焦茶のカーペットが敷き詰められ年代物の木製のキャビネットが壁に沿って並んでいる。
それらは15年ほど前にこの社屋を新築した時、新宿にあった旧本社から会長であった祖父の命でそのまま持ってきたものだ。
イタリアのサルタレッリ社のアンティーク家具だということだが、詳しいことはわからない。
雪也は企画書に一通り目を通したところで社用の携帯を取り出した。
アドレス帳の中から『滋賀工場』をクリックし、通話ボタンを押す。
『はい、東洋合繊滋賀工場庶務課でございます』
「月杜です。工場長はいますか?」
『はい、少々お待ちくださいませ』