恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
4.囚われた心
────約一時間後。
渡月橋を渡り、少し北に向かったところにある宿の前で二人はタクシーを降りた。
宿は和風旅館で、純日本建築の趣ある建物が落ち着いた雰囲気を漂わせている。
ふと入口の脇を見ると、ライトアップされた桜や梅の木が桂川のほとりで夜闇の中にぼんやりと映し出されている。
『星ノ井』と掲げられた黒木の看板の横をくぐり、二人は宿の中へと入った。
「ようこそお越しくださいました」
シックな着物を身に着けた女将らしき女性が優雅な所作で頭を下げる。
雪也は慣れた様子で女将と一言二言言葉を交わし、受付の紙に記入をした。
花澄は斜め後ろから雪也の手元を見つめていたが、その内容にはっと息を飲んだ。
『宿泊者名 月杜 雪也
妻 花澄』
こういうところでは妻ということにしておいた方が勘ぐられないのだとわかっていても、ドキドキする。
二人は女将に案内され、部屋へと向かった。
部屋は全て離れとなっており、各部屋は黒檀の木が張られた廊下で繋がっている。