恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
二人が案内された部屋は敷地の最も奥にある部屋だった。
中に入ると桂川のせせらぎの音がかすかに聞こえる。
部屋は広めの和洋室で、純和風の年季の入った家具が並べられた和室の向こうには、広いラタンのベッドとソファーが置かれた洋室が広がっている。
紅殻の京唐紙を張った襖も、昔ながらの漆喰でできた壁も、組木造りの行燈も、京都らしい上品な趣を感じさせるものだ。
「……ここはね、昔、亡くなったお祖母さまに連れてきてもらった旅館なんだ」
「え、そうなの?」
「俺の母方のお祖母さまは京都の出身でね。京都に来るたび、いろいろな所に連れて行ってもらった。もう10年以上前の話だけどね」
雪也は懐かしそうに言う。
花澄は数回会ったことのある、雪也の祖母の顔を思い出した。
自分たちが小学校高学年の頃に亡くなってしまったが、上品な物腰と優しい笑顔は今でも花澄の記憶に残っている。
「いつか、君とここに来たいとずっと思ってた。まさか出張帰りに来ることになるとは思ってもみなかったけど」
「雪くん……」
「今度は旅行で来たいな。この他にも、君と一緒に行きたい場所がいろいろあるんだ」