恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
花澄は手にしていたバッグの取っ手を無意識のうちにぎゅっと握りしめた。
ひょっとしたら、今日、そういう関係になるかもしれない……。
でなければ、クリスマスとはいえ一人2万もするコース料理をわざわざ頼むだろうか?
直行は今時の男性には珍しく、朴訥で純情な青年だ。
初めての夜を迎えるとなれば完璧なデートプランを計画するだろう。
例えマニュアル通りだとしても、その純朴さが花澄にとっては嬉しい。
そう思うのは……
直行の雰囲気がどことなく、初恋のあの人に似ているからなのだろうか。
月の光のような澄んだ瞳をした、真っ直ぐな心根の、あの人……。
花澄はロビーの壁際に寄り、手にしていた合皮の白いバッグを開けた。
バッグのサイドポケットはアパートの部屋の鍵の定位置になっており、鍵には鳥をモチーフにした小さな根付のぬいぐるみが付いている。
根付はもともとストラップだったのだが、数年前に壊れてしまい、根付の部分だけ外して鍵に括りつけた。
7年前にあの人にもらった、お揃いのストラップ……。
もう7年も経っているのにどうしても捨てられない。
花澄ははぁとため息をつき、視線をロビーに戻した。