恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
その顔には怒りというより、どこか脱力したような、疲れたような影が漂っている。
いつもの上品で穏やかな表情とは全く違うその表情に、雪也も訝しげに眉を顰めた。
「……母さん?」
小百合は二人の向かいのソファーに座り、はぁと深いため息をついた。
雪也に少し似た、綺麗な瞳が真っ直ぐ花澄を見る。
その瞳には怒りはなく、なぜかむしろ申し訳なさのようなものが漂っている。
「……ごめんなさいね、花澄ちゃん。私もまさかこんなことだとは思ってもみなくて……」
「────え?」
と目を見開いた花澄の前で。
賢吾が入口近くの棚の上に置いてあったクリアファイルを手に取り、小百合の横に座った。
そのクリアファイルには花澄も見覚えがある。
確か婚約証明書と婚姻届が入ったもので、賢吾は『弁護士に預けておくよ~』と言っていたような気がしていたのだが。
なぜそれが、ここにあるのか。
驚く二人の前で賢吾はにこりと笑う。
そして。
続いた言葉に、二人は目を剥いた。